ビサヤ語が飛び交う日常 — フィリピン妻と送る「愛しきカオス」

我が家のリビングに響き渡るのは、まるで激しいダンスホールのようなマシンガントークだ。

「マァー!」「ウンサッ!?」

妻がスマホに向かって叫ぶビサヤ語の大声に、
結婚当初はなにか家事のミスでもしてしまい叱られているのか、と心臓をバクバクさせたものだった。

だが、種明かしをすればただの「今日の晩ごはんは何?」という親子の日常会話。

フィリピンの言葉は音の抑揚が激しく、他愛もない日常会話ですら喧嘩腰に聞こえるのだから恐ろしい。

画面の向こうではセブの義母が、大音量のBGMと近所の鶏の鳴き声をバックに身振り手振りで大声をあげている。

そのすぐ隣、我が家の6歳の息子は完全なる無我の境地にいた。

義母の大声などハエの羽音程度にしか思っていないらしく、YouTubeから流れる中毒性の高いキッズソングに合わせて、妙なリズムで跳ね回る「謎のダンス」に没頭している。

画面の向こうのフィリピンばぁばの叫び声と、リビングを縦横無尽に跳ね回る息子のステップ。

言語も文化も、時間の流れさえもバラバラなカオスが、我が家のリビングで完璧なハーモニーを奏でていた。

フィリピン人と結婚するということは、一族全員の熱気とカオスをまるごと人生に迎え入れることだ。

何を言っているのかは1割も理解できない。

それでも、ソファの端で冷めたコーヒーを飲みながらその光景を眺めていると、胸の奥がじんわりと温かくなっていくのを感じる。

もし仮に、静寂と秩序を愛している私であったなら、この騒々しさに頭を抱えていたかもしれない。

けれど、この圧倒的な「生」のエネルギーに心地よさを感じる私としては、静かすぎる部屋のほうにどこか物足りなく思えてしまう。

言葉は通じなくても、ここには間違いなく、生々しく愛おしい「幸せ」という名の熱量が満ちている。

激しいビサヤ語のBGMと息子の足音を肴に、私は今日もこの温かな混沌を静かに噛みしめている。